R5 予備試験論文 民事系の振り返り

エドガーです。今回は令和5年予備試験論文の民事系の振り返りをしていきます。

 

民法

設問1

1、BはAに対して、本件請負契約に基づく報酬債務履行請求として、250万円の支払いを請求することが考えられる。

 

2、これに対してAは、本件請負契約が締結された令和5年7月1日の時点において、すでに甲は本件損傷により修復不可能な状態となっていたことから、本件請負契約に基づくBの甲の修復債務は履行不能となっており、本件請負契約は無効であると反論する。

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確かに、本件損傷によりBの甲の修復債務は履行不能となっている。もっとも、契約の締結された時点において、一方の債務が原始的に不能であったとしても、当然に契約は無効とはならないと解されている(民法412条の2第2項参照)。

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よって、Aの上記反論は認められない。

 

3、次にAは、本件請負契約締結時において、自身は甲の状態につき錯誤があったことから、本件請負契約を錯誤取り消し(民法95条1項)すると反論する。

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本件では、Aは甲が本件請負契約締結時において、未だ修復可能な状態であると認識していたが、実際には甲は本件損傷により修復不可能な状態となっていたのであるから、「法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」(同項2号)がある。

そして、本件請負契約は、Bが甲の修復を行うことに対してAが報酬を支払うことを内容とするものであり、甲が修復可能かどうかは、AB間で確認されており、本件請負契約の内容となっていたといえ、上記事情は「表示」(同条2項)されていたといえる。また、上記の通り、甲が修復可能かは本件請負契約の前提事項であるから、上記錯誤は「重要なもの」といえる。

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もっとも、上記錯誤は、本件請負契約締結に当たり、Aが甲の保管方法を誤り、本件損傷を生じさせたにもかかわらず、甲の状態を確認することを怠ったことによるもので、Aの「重大な過失」(同条3項柱書)によるものといえる。

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また、本件請負契約締結においては、Bも甲の状態について修復可能と認識しているからBがAと「同一の錯誤」(同項2号)に陥っていたとも思える。

もっとも、Bは本件請負契約締結に当たり、何度もAに甲の状態について確認しており、それに対してAは「問題ない。」と回答していることから、Aの発言を信じて本件請負契約を締結したといえる。そうだとすれば、Bの甲が修復不可能な状態であると認識したのは、Aの過失行為によるものでこれに基づき錯誤取り消しを認めることは、信義に反することとなる。よって、Bも甲の状態について修復可能と認識していることをもって「同一の錯誤」に陥っていたとはいえない。

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よって、Aによる本件請負契約の錯誤取り消しは、認められず、Aの上記反論は認められない。

 

4、Aは、本件請負契約が有効であったとしても、甲が現に修復されていない以上、本件請負契約に基づく報酬を支払う義務はないと反論する。

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もっとも、本件請負契約に基づく甲の修復債務の履行不能は、Aが甲の保管に関し、標準的な保管方法に反した方法で保管し、甲に本件損傷を生じさせたことによるものである。そうだとすれば、本件の甲の修復債務の履行不能は「債権者の責めに帰すべき事由によって」(536条2項前段)生じたものといえ、Aは反対債務の履行である本件請負契約に基づく報酬支払義務を拒むことはできない。

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よって、Aの上記反論は認められない。

 

5、したがって、BのAに対する上記請求は認められる。

設問2小問(1)(時間なくて内容スカスカ)

1,DはCに対して、乙の所有権に基づく返還請求として、乙の引き渡し請求をすると考えられる。

 

2、もっとも、令和6月2日にCがBに対し、本件委託契約の契約条項(3)に基づき乙の返還を請求する旨の通知を発し、当該通知は同日中にBに到達している。そうだとすれば、BD間の乙の売買契約の時点では、Bは乙について処分権限を有しておらず、他人物売買(561条)であり、Dは無権利者から乙を買い受けたこととなり、本件売買契約により乙の所有権を取得しない。

 

3、次にDは、乙につき即時取得(192条)が成立し、乙の所有権を原始取得すると主張する。

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もっとも、DはBから未だ乙の引き渡しを受けておらず、また占有改定(183条)の方法では「占有を始めた」に当たらないと解されているから、BがDに対して「乙は、以後DのためにBが保管する」と告げていることをもって、Dが乙の「占有を始めた」とはいえない。

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したがって、乙について即時取得は成立しない。

 

4、よって、Dは乙の所有権を取得しないから、上記請求は認められない。

 

設問2小問(2)

1、小問(1)と同様に、DはCに対して、乙の所有権に基づく返還請求として、乙の引き渡し請求をすると考えられる。そして、BD間の売買契約は他人物売買である点も小問(1)と同様である。

 

2、ここで、DはBD間の売買契約につき、表見代理(112条2項)が成立し、乙の所有権を取得すると主張する。

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・本件委託契約の条項(1)により、Cは、Bに対し、乙をBの名において販売する権限を与えており、「他人に代理権を与えた者」といえる。

・そして、令和5年6月1日のCからBへの通知により、本件委託契約の条項(3)により、Bは乙の販売権限を失っているから、「代理権の消滅後」といえ、BはDに対し、200万円で売っているから、「その代理権の範囲外の行為」をしたといえる。

・本件売買契約の際、DはBに対し、本件委託契約の契約書を示して、Cから委託を受けてBは乙の売却権限を有している旨を説明している。そして、売買契約時、DはBが本件委託契約に基づく処分権限を現在も有していると信じていたため、Dは、Bが乙の処分の代理権があると信ずべき「正当な理由」があるといえる。

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したがって、112条2項により、表見代理が成立し、Dは乙の所有権を取得する。

 

3、よって、Dの上記請求は認められる。

 

【反省点】

・設問1の途中挿入→心証悪いのでは...

・設問2をもっと丁寧に論じるべき(←設問1で時間を使いすぎ)

・設問2小問2は、BがDに200万で売ったことをもって、権限外となると認定した部分は論外すぎる。

 

【予想評価】 D~E

 

 

*商法

設問1

1,まず、乙社は、本件総会についての議案の要領を本件総会の招集通知に記載することを請求したのに、本件招集通知に乙社が提案した議案の要領の記載がされなかったことが、「株主総会等の招集の手続」が「法令」に「違反」するとして、本件総会の決議取消事由になる(831条1項1号)と主張する。

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(1)305条1項の要件検討→充足

 

(2)また、本件招集通知に乙社が提案した議案の要領の記載がなされて、乙社が本件総会で上記内容の動議を提出できていたら、BではなくFが選任される可能性は十分に存在していたのであるから、本件招集通知に乙社が提案した議案の要領の記載がなされなかったことは、「違反する事実が重大」でないとはいえず、また「決議に影響を及ぼさないもの」ともいえないから、裁量棄却(同条2項)は認められない。

 

(3)したがって、甲社が本件招集通知に乙社が提案した議案の要領の記載をしなかったことは、305条1項本文に反し、本件総会の「招集の手続」が「法令」に「違反」するとして、本件総会の決議取消事由となる。

 

 

2、次に、乙社は、本件総会において、甲社が乙社の代理人となったEの本件総会の出席を拒み、Eが本件総会に出席できなくなったことが「株主総会等」の「決議の方法」が「法令」に「違反」するとして、本件総会の決議取消事由となると主張する。

 

(1)まず、株主総会における議決権行使の代理人の資格を甲社の株主に限る旨の甲社の定款自体が、代理人による議決権行使を認める310条1項前段に反しないか。

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代理人の資格を株主に限定する目的→株主以外の第三者が総会に参加して議事をかく乱することを防止するため→合理的

また、株主である者を代理人とすれば議決権の代理行使はできるのであり、一切議決権の代理行使を認めないものではない→相当程度の制限

したがって、代理人の資格を株主に限定する定款は、合理的目的のための相当程度の制限であれば、310条1項前段に違反しないと解される。

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甲社の定款は合理的目的のための相当程度の制限である(ほぼ、上記と同内容をなぞっただけ)から、310条1項前段に反しない。

 

(2)もっとも、議決権の行使は、株主総会という会社の方針や方向性を決定する場で自己の意思を反映する点で株主にとって重要な権利である。また、代理人の資格を株主に限定する目的代理人の資格を株主に限定する目的は、上記の通り、株主以外の第三者が総会に参加して議事をかく乱することを防止することにある。そこで、株主以外の代理人であっても議事をかく乱するおそれがなく、かつ、その者による議決権の代理行使を認めなければ、事実上株主の議決権行使の機会を奪ってしまうといえる場合には、定款の効力は及ばないと解する。

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Eは、乙社の従業員であり、また乙社の唯一の取締役のDの子であるから、乙社及びDによるコントロールが及んでいるといえ、本件総会に参加しても議事をかく乱するおそれはない。

 

また、甲社の株主である乙社は法人であり、乙社自身が本件総会に参加することは観念できず、誰かを代理とする必要がある。そして、乙社の唯一の取締役がDであるが、Dはスケジュールの都合上、本件総会に参加することはできなかった。そうだとすれば、乙社は他にE以外の従業員しか存在しないのであるから、Eによる議決権の代理行使を認めなければ、乙社は議決権を行使できなくなるといえる。

 

したがって、本件では、Eによる議決権の代理行使を認めても、議事をかく乱するおそれはなく、かつ、Eによる議決権の代理行使を認めなければ、事実上株主である乙社の議決権行使の機会を奪ってしまうといえる場合にあたり、Eの議決権行使について甲社の定款の効力は及ばない。

 

(3)よって、本件総会にEの出席を拒否したことは310条1項前段に反し、本件総会の「決議の方法」が「法令」に「違反」するといえる。

 

(4)また、上記の通り株主の議決権行使は上記の通り重要であり、本件ではこれが害されているので、「違反する事実が重大」でないとはいえず、裁量棄却も認められない。

 

(5)よって、上記乙社の主張は認められる。

 

設問2

1、まず、乙社は本件発行の無効の訴え(828条1項2号)を提起している。ここで、新株発行無効の訴えにおいては、明文で無効事由は定まっていないが、法的安定性、取引の安全の観点から、重大な法令・定款違反に限られると解する。

 

2、乙社は、本件発行は「特に有利な金額」(199条3項)によるものであり、甲社の株主総会の決議が必要(199条2項、201条1項)であるのに、乙社において株主総会の決議を欠いたことが無効事由にあたると主張する。

 

(1)新株発行は、資金調達のためになされるものであるから、時価よりも低い価格が望ましい一方で、既存株主の持株比率の維持も保護すべきである。そこで、「特に有利な金額」とは、公正価格よりも低い価格をいい、公正価格とは資金調達の目的が達せられる限度で既存株主に最も有利な価格をいう。

 

(2)本件では、丙社に発行された株式の払い込み金額は、公正な払い込み金額である1株当たり20万の2分の1にあたる1株当たり1万円である。

 →したがって、公正価格よりも低い価格といえ、本件発行は「特に有利な金額」によるものといえる。

 

(3)したがって、本件発行において甲社の株主総会の決議を欠いた点は、199条2項に違反する。

 

3、もっとも、公開会社においては非公開会社と比較して既存株主の持株比率の維持は重視されていない。また、乙社としては、甲社に対して損害賠償すれば足りるといえる。したがって、本件発行において甲社の株主総会決議を欠いたことは、重大な法令違反とはいえず、無効事由にあたらない。

 

【反省点】

・設問1は、議案要領記載の部分は、決議取消事由にあたるかをもっと検討すべきだった(?)→裁量棄却で論じた部分(←この辺は不明)

・設問1の議決権の代理行使は、定款自体の有効性のあてはめが謎。←そもそも、合理的目的に基づく相当程度の制限であるとして、三段論法で論じなくてもいいのか。

・設問2をもっと丁寧に論じるべき(←設問1で時間を使いすぎ)

 →今回は難易度が低い典型論点だったから、論点こぼしは痛すぎる...

 

【予想評価】 D~F(本当に設問2の論点落としがF直行なのかは不明)

 

 

民事訴訟

設問1

1、まず、訴訟①における、XのYに対する甲土地の所有権に基づく乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴えから、甲土地についてのYの賃借権の不存在を確認することを求める訴えへの変更の法的性質が問題となる。

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(1)ここで、上記訴えの変更は、訴えの交換的変更であり、その法的性質は旧訴の取り下げと新訴の併合と解されている。

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そうだとすれば、上記訴えの変更により、XのYに対する甲土地の所有権に基づく乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴えについては訴えの取り下げ(261条1項)がなされたといえる。そして、訴訟①については、XのYに対する甲土地の所有権に基づく乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴えについて第一審でX勝訴の判決を得ているから、Xは「本案について終局判決があった後に訴えを取り下げた者」(262条2項)にあたるといえる。

 

(2)そして、訴訟①におけるXのYに対する甲土地の所有権に基づく乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴えと、訴訟②のおける訴えは、当事者がXとYで同一であり、訴訟物も甲土地の所有権に基づく返還請求としての甲土地明渡請求権で同一である。したがって、訴訟②における訴えは、「同一の訴え」にあたる。

 

(3)よって、訴訟②は262条2項に反するとして却下されるというのがYの主張である。

 

2、もっとも、以下により、上記Yの主張は認められない

 

(1)まず、262条2項が再訴禁止効を定めた趣旨は、判決に至るまでの裁判所の努力を徒労に帰せしめたことに対する制裁と訴権の乱用防止にある。

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 そうだとすれば、相手方の信義に反する行為により、再訴を余儀なくさせられたというような再訴を認めても上記趣旨に反しないと認められる場合には、「同一の訴え」に当たらないと解する。具体的には「同一の訴え」といえるためには、訴えの利益の同一性まで要すると考える。

 

(2)本件の訴えの変更は、訴訟①におけるXのYに対する甲土地の所有権に基づく乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴えにおいてYが増改築部分も含む乙建物はAら3人の所有に属し、Yは所有していないと主張したことにより、XはYに対して上記訴えを維持することは不可能であると認識したことによるものである。それにもかかわらず、控訴審の判決が確定した後に、Yが再び増改築部分も含めて乙建物は自らの所有であると主張してきたのである。このようなYの行動は、信義に反し許されず、新たにXのYに対する甲土地の所有権に基づく乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴えをする訴えの利益を有する。

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したがって、訴訟②における訴えは「同一の訴え」にあたらない。

 

(3)よって、訴訟②の提起は262条2項に違反するものでなく、却下されることはない。

 

設問2

1、XがYに対して、乙建物を収去して甲土地の明け渡しを求めることは、XY間でなされた本件和解の和解調書の効力(267条1項)により、許されないのではないか。

 

(1)まず、和解調書の効力が問題となる。

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和解調書は「確定判決と同一の効力を有する」とされているから、和解調書の効力として訴訟終了効のみならず、既判力(114条1項)も有すると解される。

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もっとも、和解は当事者双方の互譲により紛争の柔軟な解決を図るものであり、和解の前提となった事項についての当事者の意思表示に瑕疵がある場合に、裁判官がその瑕疵を確認しているものではない。そうだとすれば、和解の前提となった事項について当事者に意思表示の瑕疵がある場合は、取消しを認めなければ当事者を不当に害することとなる。

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そこで、和解調書は訴訟終了効のみならず、既判力も有するが、錯誤や詐欺などの意思表示の取り消しは認められるという、制限的既判力を有すると解する。

 

(2)そして、本件のXY間の和解交渉の際に、YはXに対して乙建物を賃貸して生計を立てていたが、現在居住している丙建物が取り壊されることになり、今後は自ら乙建物を店舗兼居宅として利用したいと虚偽の説明をして、Xはそれを信じやむを得ないと考え、本件の和解に応じている。しかし、実際には、丙建物が取り壊される予定はなく、YがDに対して乙建物を賃貸することを目的としていたのである。そうだとすれば、Xが和解に応じる基礎となった事情に錯誤があるといえ、和解に応じる意思表示を取り消すことができるといえる。

 

(3)したがって、XがYに対して、乙建物を収去して甲土地の明け渡しを求めることは、本件和解の和解調書の効力に違反しない。

 

2、そして、Xとしては、XがYに対して、乙建物を収去して甲土地の明け渡しを求める請求は訴訟①における第一審で勝訴しており、控訴審がそのまま継続していれば勝訴したと考えているから、新訴の提起ではなく、本件和解の無効を前提とした控訴審の期日指定の申し立てにより、乙建物を収去して甲土地の明け渡しを求めることが考えられる。

 

【反省点】

・設問1のYの主張の部分も、訴訟②の訴えは「同一の訴え」にあたり、262条2項に違反するものとして却下されると述べてから論じるべきだった(?)(あまり有意な差ではない気もする)。

・設問2の期日指定の申し立ての理由付けをもっと厚くするべきだった。旧訴の状態をそのまま利用できる等。

 

【予想評価】 B(あわよくばA)

 

民訴は去年の借りが返せたと思う反面、民法と商法がいまいちな出来です。民法は、もう少し基本に立ち返ることが大切なのかなと思いましたね。