R5 予備試験論文 労働法の振り返り

エドガーです。今回は令和5年予備試験論文の労働法の振り返りをしていきます。

 

*労働法

設問1

1, A社は、Bに対して、帰国後60か月以内に自己都合でA社を退職する場合は海外研修費用の全部又は一部を返還すること(以下、「本件条項」)を内容とする誓約書に基づいて、A社が負担した海外研修費用の返還を請求することが考えられる。

 

2, もっとも、本件条項は、「違約金を定め」たもの、または「損害賠償を予定する契約」であり、労基法16条に反し、無効とならないか。

 

(1)労基法16条の趣旨:労働者の足止め防止

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   実質的に「違約金を定め」たもの、または「損害賠償を予定する契約」であれば、労働者を足止めする効果を生じるから、労基法16条に反する。

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  そして、業務上の研修・留学費用は、本来、労働者が負担する必要のないものであるから、これにつき返還義務を負わせることは、実質的に「違約金を定め」たもの、または「損害賠償を予定する契約」といえる。

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  具体的に業務上の研修・留学に当たるか否かは、①研修と業務の関連性、②研修の一般的通用性、③研修に対する使用者の関与の程度を総合的に考慮して判断する。

 

(2)ア, まず、A社は宿泊業を営み、国内にとどまらず、国外においても広く事業を展開している。そうだとすれば、A社は外国人とも円滑にコミュニケーションをとれる人材の育成を目指していたといえる。そして、A社の海外研修制度は、国際的な人材を社内に育成するため、英語力の教化や多様性に対する理解力の向上の目的としている。英語力や多様性に対する理解力が向上すれば、外国人との円滑なコミュニケーションをとることができるようになり、A社の目指す人材となり得る。したがって、A社の海外研修制度とA社の宿泊業という業務に関連性はある(①)。

 

   イ, 他方で、上記の通り、A社の海外研修制度で得られるのは、英語力と多様性に対する理解力の向上である。そして国際化社会においては、他の企業、業種においても英語力と多様性に対する理解を有する人材は強く欲するところであり、A社の海外研修制度によりBが英語力と多様性に対する理解力を向上させれば、Bは他の企業において引く手あまたとなり得る。また、英語力と多様性に対する理解を有することを考慮し、より賃金等がより好待遇となる他の企業への転職も可能となることも考えられる。そうだとすれば、英語力と多様性に対する理解力の向上は、一生におけるB自身の価値を基礎づけるものとなるといえる。したがって、A社の海外研修の一般的通用性は認められる(②)。

 

   ウ, さらに、A社の海外研修制度においては、研修先となる大学・研究機関や専攻は社員の選択に委ねられており、BもA社の海外研修制度に自らの意思で応募し、C国の大学の大学院へ留学することとなっており、海外研修内容についてBは自由に決定することができる立場であった。また、Bは海外研修の間は、A社の全社員を対象とするオンライン研修以外は、A社の業務に従事することは求められず、学業に専念することができた。さらに、そのA社の研修も2か月に1回程度と頻度はかなり少なく、また時間も長くて3時間であり、長時間Bを拘束するものではなかった。またそのA社の研修はオンラインでなされることからある程度どの場所でも受けることができ、Bの負担は小さかったといえる。したがって、A社の海外研修の使用者の関与の程度は小さいといえる(③)。

 

(3)よって、①、②、③を総合的に考慮すれば、A社の海外研修は業務上の海外研修とはいえず、本件条項は実質的に「違約金を定め」たもの、あるいは「損害賠償を予定する契約」とはいえず、労基法16条に違反しない。

 

3, よってA社は、本件条項を内容とする誓約書に基づき、Bに対してA者が負担した海外研修費用の返還を請求できる。

 

設問2

1, G社に対する責任追及

(1)まず、FとG社は、労働者と使用者の関係にあり、G社はFに対して、FG間の労働契約における付随義務として、働きやすい職場環境を整備する義務を負う(労契法3条4項参照)。

(2)そして、本件においては、FはA社は経営するホテル内での清掃業務に従事していたが、同ホテルで働くE社従業員のDから、好意を持たれ、退勤する際に自宅近くまでついてこられたり、休日に自宅の付近を歩き回られたりしており、ストーカー被害を受けていた。またDは、ホテル内の業務中に、あえて備品室や客室でFと二人きりになる状況を作るなどしており、当該行為はFの恐怖でしかないものといえる。その結果、Fは、同ホテルでの業務中においては常にDの存在におびえながら、職務を行わなければならない状況にあったといえ、働きやすい職場環境であったとはいえない。それにもかかわらず、FからDの上記行動について相談されたG社は、状況を軽視し、Fが主張する前記のDの行為について更に調査をしたり、Fの職務場所の変更を検討したりすることはなかった。したがって、G社は働きやすい職場環境を整備する義務に違反しているといえる。

(3)よって、G社は、上記義務に違反しており、帰責性も認められることから、民法415条1項に基づき、Fの精神的損害について、賠償する責任を負う。

 

2, A社に対する責任追及

(1)まず、FはA社の経営するホテル内で業務に従事しているから、A社もG社同様、Fに対して働きやすい職場環境を整備する義務を負う。

(2)そして、Dの上記行為により、Fにとって同ホテル内が働きやすい職場環境ではなかったことは上記の通りである。

(3)もっとも、A社はそのグループ会社によるコンプライアンス違反行為の予防、対処のためにコンプライアンス相談窓口を設置していた。そして、同窓口の存在をグループ会社に周知しており、G社の社員にも実際に同窓口の存在が周知されていた。それにもかかわらず、G社はFからDの行為について相談された際に、Fに対しA社の相談窓口への相談を進めることはなかった。そうだとすれば、A社は、Dの行為によってFが被害を受けていることを知り得る状況になかったといえ、働きやすい職場環境を整備する義務違反に対する帰責性がないといえる。

(4)よって、A社はFに対して何ら責任を負わない。

 

【反省点】

・設問1で、最終的に特約付きの金銭消費貸借契約に着地すべきだった。

→誓約書に基づく返還請求って曖昧すぎる。

・A社が海外研修中も基本給を支払っている部分をどこに入れ込むかわからなかった。

・全体として設問1に時間をかけすぎた。

→設問2のG社の部分も時間がなかったにしろ、

民法415条1項本文に基づき責任を負わないか」と最初に示して、三段論法の形をとるべきであった。

・そもそもA社とFは雇用関係にないから、債務不履行責任は無理。

不法行為によるべきだった。

 

【予想評価】C~D

 

今回も個別的労使関係法が出ましたね。これは、試験委員は予備では労組法を出さない趣旨なのでしょうか(^ω^)

なお、来年こそ整理解雇がでます。4要件書かされます(予言)。